『木のいのち 木のこころ』

『私の家は代々法隆寺に仕える大工でした。』

『檜(ひのき)のよさと、それを生かして使った飛鳥人の知恵の合作が、
世界最古の木造建築として生き残ってきた法隆寺です。』

『法隆寺を造り守ってきたのは、
こうして受け継がれてきた木を生かす技です。
この技は数値ではあらわせません。文字でも本にも残せませんな。
それは言葉にできないからです。
技は人間の手から手に引き継がれてきた「手の記憶」なのです。
そしてこの手の記憶のなかに、
千三百年にわたって引き継がれてきた知恵が含まれているのです。』

『千三百年前に法隆寺を建てた飛鳥の工人の技術に
私らは追いつけないんでっせ』

『その木を見抜き、その木を使うことができ、
そのうえ日本の風土をよく理解し、
それに耐える建築物を造っているんですからな。
風も吹きますし、雨も降る、暑いお日さん照らされもすれば、
雪や霜にも当たっている。
そのうえ地震もあって、千年以上建っているんでっせ。』

『木は大自然が育てた命ですがな。木は物ではありません。
生きものです。
人間もまた生きものですな。木も人も自然の分身ですがな。
この物言わぬ木とよう話し合って、
命ある建物に変えてやるのが大工の仕事ですね。』

『檜はいい材です。湿気に強いし、品がいい、香りもいい、
それでいて細工がしやすい。
法隆寺には千三百年も前の檜がありますが、
今でも立派に建っていますし、鉋(かんな)をかけてやりますと、
今でもいい香りがしますのや。』

『木のいのちには二つありますのや。一つは木の命としての樹齢ですな、
もう一つは木が用材として生かされてからの耐用年数ですわ。』

『とにかく古い材というのたら宝ものですな。
ダイヤモンドや金なら掘ったらまだ出てきますやろが、
古い材はいうたら限りがありまっしゃろ』

『木は生きているんです。計算通りにはいかんのですわ。
一本一本、木の性質が違いますのや。そりゃ、そうですわ。
人間でも同じです。
育った場所も気候も、風当たりも日当たりも、性根もまったく違いますのや。
それをみんな同じものだと計算して、
そのうえ目の前で設計図通りに仕上げればいいと思うてます(今の建築家は)』

『(木の)癖というものは悪いもんじゃない。使い方なんです。
癖のあるものを使うのはやっかいですけど、
うまく使ったらそのほうがいいということもあります。
人間と同じですわ。癖の強いやつほど命も強いというかんじですな。
癖のない素直な木は弱いし、耐用年数も短いですな。』

『これらの建物の各部材には、
どこにも規格にはまったものはありませんのや。
千個もある斗(ます)にしても、
並んだ柱にしても同じものは一本もありませんのや。
よく見ましたら、それぞれが不揃いなのがわかりまっせ。
どれもみんな職人が精魂を込めて造ったものです。
それがあの自然のなかに美しく建っていまっしゃろ。
不揃いながら調和が取れてますのや。
すべてを規格品で、みんな同じものが並んでもこの美しさできませんで。
不揃いやからいいんです。
人間も同じです。 自然は一つとして同じものがないんですから
それを調和させいくのがわれわれの知恵です。

『私らが相手にするのは檜です。
木は人間と同じで一本ずつが全部違うんです。
そうすれば、千年の樹齢の檜であれば、千年以上持つ建造物ができるんです。
これは法隆寺が立派に証明してくれています。』


『教育は「教え」、「育てる」とこう書きますな。
徒弟制度は「育てる」、これだけです。』

『一人前の職人になるためには長い修業の時間がかかります。
近道や早道はなく、一歩一歩進むしか道がないのです。
学校と違って、頭で記憶するだけではだめです。
また、本を読んだだけでも覚えられませんな。
たくさんの人が一緒に同じことを学んでも、
同じ早さで覚えられるものでもありません。』

『本を読んだり、知識を詰め込みすぎるから
肝心の自然や自分の命がわからなくなるですな』

『それに自然には、急ぐとか早道みたいなもんはないですからな。
春に植えた稲は秋まで育てんと実がつきませんがな。
人間がいくら急かしても、自然の時の流れは早ようなりませんのでな。
急いだら木は実らんし、木は太うならん。』

『早く覚えて先にいったほうがいいということはないんです。
むしろそいう人たちよりじっくり進んだ人のほうが、
刃物なんかはいい切れ味になりますな。
体が時間かけて覚えこむですな。
時間をかけて覚えこんだことは忘れませんわ。
こうした一見無駄なように思えることが大事なんですな。』


『今の人は自分で生きていると思うていますが、
自分が生きいるんやなしに天地の間に命をもらっている
木や草やほかの動物と同じように生かされているということ、
これを深く理解せなあきません。』


「木のいのち 木のこころ」(西岡常一・小川三夫・塩野米松 著 新潮文庫)
http://www.shinchosha.co.jp/book/119031/

この本には、こうした珠玉の様な言葉が次から次へと出てきます。
以上は、私がそのほんの一部をスクリプトしたもので、
また、このブログのために、各パラグラフの順序を入れ替えております。

本は現実の世界を垣間見る一手段にしか過ぎない。
現実の世界、人間社会、大自然は底知れないほど深い。
「本物」を知るには、書を捨てて、その「世界」にわけ入るしかない。
スポンサーサイト
プロフィール

Hocco21

Author:Hocco21
手前、生国と発しますは
芸州・ひろしまです。
小さい折から、太田川の
産湯を使い、
長じましては宮島の弥山を
眺めてその日暮らし、
年金生活をおくってます。
さあて、ここに
取りいだしたるは、
本や音楽のお話、
また、映画や写真の話題、
それに、楽しい話に、
くだらねー話と、もり沢山!
御用とお急ぎでない方、
さあて、お立会い!

この度、「カテゴリー」の欄に
「私のお気に入り」という項目を
作成しました。
御用とお急ぎの方、
この「私のお気に入り」を
クリックてみてください。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード