子曰く

先日、あるビアパーティの席上で、
この道何十年という印鑑の職人さんとお話をする機会をえました。
藤原通禮さんとおっしゃり、私同様白髪で、すでに70歳を超えておられ、
「印章工房ゆい」をかまえられておられます。
その藤原さんが力説されましたのが、
白川静という漢学者の素晴らしさです。


『彼の「常用字解」という辞典の表紙にある漢字に
深い意味がこめられているんですよ。』
と教えていただきました。

ということで、いろいろと調べてみました。
調べていくうち、とても面白い事を発見しました。
そのことを申し上げる前に、まずは、藤原さんがおっしゃった、
「常用字解」という辞典のことをお話しましょう。
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表紙にあるサイという文字は「口」に該当します。
そこには、『甲骨文字や金文には、人の口とみられる明確な使用例はなく、
みな神への祈りの文である祝詞(のりと)を入れる器の形のサイ「 サイ」である。
古、右、可、…などに含まれる口は「サイ」と解釈することによって、
初めてその字形の意味を理解することができる。』

つまり、「口」という漢字には、人の口という漢字と、
もう一つ「サイ」という漢字がある。
これが有名な白川静氏の「サイ」の発見だそうです

所が、藤堂明保篇「学研 漢和大字典」には、
「口」について、次のように記載されています。
『人のくちをあなを描いた象形文字。』と簡単に記されています。

鎌田正、米山寅太郎「漢語新辞典」では、
人の口だけに限定されています。

面白いですねー。辞書によって、内容が少しづつ違うのです。
では、口の入った漢字、例えば、可能の「可」という漢字は、
それぞれどのように解釈しているのでしょうか?

白川説「…、その「サイ」を樹の枝(丁)で殴(う)ち、
祈り願うことが実現するように神にせまる。
願いごとを実現す「べし」と神に命令するように強く訴え、
それに対して神が「よし」と許可する(ゆるす)のである。』

藤堂説「…、のどを屈曲させ声をかすらせること。
屈曲を経てやっと声を出すの意から、
転じて、さまざまな曲折を経てどうにか認めるの意に用いる」

鎌田説「…、口の奥から大きな声を出すさまから、
転じて、よいの意味を表す」

どうです? まさに三者三様、説明が全くと言っていいほど違います。
面白いですねー。言っておきますがこれらは全部「辞書」ですよ!
辞書には全て正しいこと、正解が書かれていると
思い込んでいた私はどう対応したらいいのでしょうか?

漢字が生まれたのは、今から3300年以上も前のことだそうです。
殷王朝時代に亀の甲などに卜(うらな)うために刻まれた文字が
およそ5000字、そのうち解読されているのが
半分以下の約2000文字だそうです。
従って、このような諸説が出るのも、うなずけるような気がします。

でも、白川静「常用字解」は調べる辞書としてだけでなく、
つれずれに読む本としても、大変面白い。
今、彼の著作物がブームになっているのが、
何かうなずけるような気がします。
また、諸説あるのも、楽しくていいですね。

さて、この辞典は常用漢字について解説がなされていますが、
ただ一字、「曰」(エツ、いう)という漢字だけ特別に追加されています。
それだけ、大切な漢字なのでしょう。
 ※「曰」は「子、曰く…」の「いわく、のたまわく」
   という論語によく出てくる漢字で、
   何曜日の「日」とは違います。
   前者は横長で、中の横線がくっついていません。

それは、「曰」という字は、「旨、者、習、智…」などの漢字を
構成しているため、その説明として必要なのです。
つまり、「曰」とは『「サイ」祝詞を入れる器の蓋を少し開いて、
中の文書を見る形。(略)曰とは神のお告げことを意味する。』

従って、論語でいう、「子、曰く」とは、子=孔子=神という公式から、
そのように使われたとのこと。
また、「曰(いわ)く」は古くは「のたまはく」と読んでいましたが、
これは「詔(の)りたまはく」からきているそうです。

最後に、その論語から
「子曰わく、人の己(おの)れを知らざるを患(うれ)えず、
  人を知らざるを思えよ」

意味深い言葉ですね、これが今からさること、
2400年以上も昔の人の言葉です。

<参考図書>
白川静「常用字解」(平凡社)
藤堂明保篇「学研 漢和大字典」(学研)
鎌田正、米山寅太郎「漢語新辞典」(大修館書店)
「論語」貝塚茂樹訳注(中公文庫)
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